【ナンパ物語】第1話 慟哭の夜
遡ること?年前。
新卒で入った会社を辞めた後、オレは引きこもったり、バイトしたりしてクソみてーな生活を送っていた。
意識の低いバイト仲間に囲まれぬるま湯のような状態で漂っていた中、ある日「このままじゃマジヤバい」と将来に対する圧倒的な不安を感じたオレは一念発起して再就職の活動を始めた。
面接2社目だったか、コミュ障の上面接のやり方も何も知らないオレは勢いだけで臨んだが、結果それが功を奏したようだ。
「何かこいつ面白そうだ」というポテンシャルのみで採用が決まった。
同年度に入った同期は何人かいた。
白石麻衣(仮名)と星野みなみ(仮名)もそのうちの2人だった。
白石麻衣は芸能人ばりのルックスレベルに加えて品の良さがあった。
オレはひと目見たときに彼女に瞬殺された。
しかし、(ほぼ)童貞よろしく、彼女とは緊張しすぎてまともに会話することができなかった。
彼女の方は気さくに話しかけてくれようとするのだが、オレの方は気の利いたことを言おうとするあまり、言葉が口から出てこないか、完全に滑ったかんじになるかのどちらかだった。
他方、星野みなみは新卒の子でオレとは年が離れていたが、人懐っこい性格だった。
イジられキャラだったオレに年下ではあるが気後れすることなく自然な様子でイジってきた。
そのおかげでイジられに対するリアクションorツッコミみたいな流れに乗ることで、女性が苦手だったオレも星野みなみに対しては自然なかんじで喋ることができた。
そして、(ほぼ)童貞よろしく、彼女はオレに気があるんじゃないかと勘違いするようになり、オレも彼女を意識するようになった。
星野みなみも白石麻衣と比べるとレベルは落ちるものの、ロリ系で一般よりは可愛いレベルにあった。
さて、入社後しばらく経過した後に、男の同期だけで飲みにいくことがあった。
星野みなみの話題になったときに、大分酔っ払っていた同期の一茶(仮名)が急にひとこと言った。
「オレはみなみのこと囲ってるから」
オレはそのワードが理解できなかった。
一茶は男前で爽やかで仕事もできる(風)の男だった。
結婚しており子だくさんだ。
囲っているって??
「オレの家の帰宅途中のところに引っ越しさせたんだよね。たまに寄ってセックスしているよ」
心臓の鼓動が早くなる。
頭が追いついていない。
なんだよ、それ?
愛人ってことか・・・。
不倫のカミングアウトにはリスクしかない。
一茶は危機管理能力は低めであったこともあるが(その後別の案件でも不倫がバレることとなる)、この場でカミングアウトに至ったのは、どうやらオレが星野みなみに気があるのを察知して、一茶は防衛戦を張ったようだった。
もちろん、そういった一茶の思惑を推察するに至ったのは大分後になってからで、このときのオレはただただショックで、トンカチで殴られたかのように頭がクラクラしていた。
オレは何とか平静を装いながら、「すげー」とか適当に相槌打ってその場を切り抜けた。
帰宅後、熱いシャワーを浴びながらオレは声を上げた。
あああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!
みなみはバカじゃねえか!!!!!
なんで、一茶みてえなクズ男に言いようにされてんだ!!!!
いつも、そうだ!!!!!
女なんてみんなバカばかりだ!!
なんで、オレじゃねえんだ!!
なんで、クズ男なんだ!!!!
世の中間違っている!!!!
慟哭の夜。
あの夜からオレの物語が動き出した。
そして、間違っていたのは世の中ではなく、オレだったと知ることになる。
(To be continued)